| 幼稚園児を数十名連れて山へ遊びに行った時のことです。あるグループの子どもたちが山の斜面を登って遊んでいる光景を目にしました。急な山の斜面を登ってはお尻をつけて滑り下りる。みんな元気に天然のすべり台でわいわい遊んでいたのですが、その中のある子は斜面の中腹までは登ることができるのですがそれより上には登れずにいました。しばらく様子を見ていると、どうやらその子は手が汚れることを嫌い急な斜面でも地面に手をついて登ろうとしていませんでした。なぜ手をついて登るのは嫌なのか聞いてみると「気持ち悪いから」との答えが返ってきました。なるほど。山の中の土は枯れ葉が積もり腐葉土となりその中からは様々な虫が顔を出すこともあります。そんな自然の環境の中にある土を触るという体験がなかったために気持ち悪いと感じたのでしょう。
しかしながら、手をつかずに登れるほど甘くはない斜面に出会ってしまった…。他のお友だちが手をついて斜面を登っていく姿を見ていると、自分も登りたい…だけど…。心の中で多くの葛藤があったと思いますが最終的には恐る恐る手をついて斜面を登ります。少し湿気たひんやりした土に触れる。その子にとっては初めての体験でしょう。そしてついに…やった!できた!登れた!斜面を登り切ったその子は達成感に溢れた良い表情をしていました。
これは一人の子どもが野外で体験したごく一部のできごとですが、実はこの体験の中には子どもが成長する糧がちりばめられています。歩いては登ることができない急な斜面をしっかり手と足を地面につけて踏ん張り登るという動きの要素。体の中で神経系の発達が最も活発な幼児期に色々な動きを楽しく体験することによって、大きくなってから様々な場面に応じた体の動かし方を体得することができるようになります。この動きの体験は、生きていく力を育む上で大きな財産になることでしょう。
また、他のお友だちが斜面を登る姿を見て「僕も登りたい!」という気持ちが生まれ、勇気をだして一歩踏み出したこと。「手をついて登る」と決めたのはこの子自身ですが、その決定に大きな影響を与えたのは周りにいたお友だちではなかったでしょうか。きっと一人で斜面を登っていればできなかったことですよね。
時代が変わりこのように子どもたちが集団で外遊びをする機会は減ってきているのかも知れません。しかし機会さえあれば子どもたちは自分達で乗り越える力を持っています。もうすぐ夏休み。この夏も子どもたちが様々な成功や失敗の体験を通して「生きる力」を育んでいくことができるよう、子どもたちに機会を与えそっと見守ってみませんか。
2008.5 |